まるっと
NARA
SAHO

学長メッセージ

ベトナム教育視察

2014.02.21

2014年2月10日から13日まで、海外における日本語教育事情視察のためベトナムのハノイを訪問しました。

今回のベトナム訪問については、現地での案内を、奈良女子大学大学院博士課程院生のベトナム人マイ・ティ・タン・ガーさんにお願いしました。彼女は、奈良女子大学同窓会「佐保会」のベトナム支部長であり、ベトナム日本人材協力センター(VJCC)で、日本留学支援や日越交流等の活動支援に尽力された経験もあり、ベトナムと日本の架け橋になりたいとの熱い思いで日本について研究をされている女性です。

初日に、ベトナム日本人材協力センターを訪問しました。当センターは、2002年に日本とベトナム両国政府の合意のもとに設立された人材育成機関で、国内で最高レベルの大学の一つであると言われるベトナム国家貿易大学の敷地内にあり、行き交う学生たちの雰囲気もそれを感じさせます。日本留学支援コーナーでは、日本留学のための情報提供、帰国留学生や関係者への情報提供及び留学生ネットワークの構築など、日本の大学への留学促進支援活動を実施しており、日本学生支援機構(JASSO)の「日本留学促進資料公開拠点」として登録されています。奈良佐保短期大学の留学生のひとりであり、ベトナムから来ている生活未来科食物栄養コースのチャンさんも、ここで日本語を6か月学んだことがあるそうです。
ベトナム人学生の日本志向は高く、日本企業やVJCCのような日本と関わりのある機関への就職を希望する学生が多いそうです。しかしながら、厳しい経済状況から留学を断念する学生もいるとのことでした。

今回、ベトナム日本人材協力センターには大学案内等の情報提供も引き受けていただくことになりました。ベトナムの学生にとってどのような情報が必要なのかを再検討して、さらに分かり易い資料も添えて届けたいと考えています。対応していただいた所長の知的で美しいキム・アイン・フンさんの素晴らしい笑顔と日本語に魅了された訪問でした。

さて、ベトナム視察の2日目は、ハノイ大学日本語学部を訪問しました。
最初に、日本語学部長のチャン・ティ・チュン・トアン先生にお話を伺いました。先生によると、日本語を学ぶ学生数は増加しており、1993年学部開設時18名でしたが2012年には232名となっているとのことです。また、日本との交流協定大学は、奈良女子大学をはじめとして23大学に及んでいるとのことでした。日本に留学して日本語の能力をさらに磨き、日本企業等に就職することが、日本語学部で学ぶ学生にとって大きな夢の一つとのことです。そして先生方は、それが適えられる道をいつも考えており、よい方策を共に検討できればと思うと話されておられました。学生を思う先生の真摯な姿に強い感銘を受けました。

次に、日本語学校や日本留学斡旋を実施する民間の教育活動機関を訪問し、所長のブイ・ティ・フェさんにお目にかかりました。この教育活動機関は日本(特に北九州)との交流が深く、毎年多くの留学生を日本に送っておられるそうです。留学先をご自身が訪問されて留学生の様子を確認されるなど、留学生は言うに及ばず留学先からも信頼を得ておられることがよく分かりました。彼女が、安心できる所に学生を送りたい、またそれが自分の務めであるときっぱりと話される言葉の中に、学生に対する強い愛情を感じました。

ガーさんの紹介でお会いした皆様が、日本への関心が高く、さらに日本を高く評価されるが故に、日本語を学ぶベトナム人を支援したいとの思いを強く持っておられました。加えて、仕事にかける情熱の強さだけでなく、優しく人を包み込む豊かな感性に、お会いする者が心の安らぎを覚える方々でありました。この良い出会いを大切にしたいと思いました。

3日目は、島々の景観が彫刻作品のように素晴らしく、ベトナム屈指の景勝地としてユネスコの世界遺産に登録されているハロン湾が見渡せるハロン市の私立の学園を訪問しました。ハロン湾の素晴らしい眺望がきく学園で、授業を受ける子どもたちの目が輝き、顔が生き生きとしていています。ここでは素晴らしい教育が実施されていることが伺えました。グエン・ティ・ホン・アン校長やその夫君である理事長は、地域の発展のためにも、日本語教育に力を入れたいと考えていると話されました。
午後からは幼稚園を訪問しました。ベトナムの幼稚園は、日本の保育園と幼稚園が一体化した教育施設で、就学前の2歳から5歳までの子どもが通っています。子どもが通いたい、親が通わせたいと思うような明るい雰囲気の施設で、子どもたちの笑顔が印象的でした。
理事長や校長先生共々、日本の教育に関心が高く、様々な角度から質問がありました。そこで、日本の幼稚園から高等学校までの教育内容や教育事情について、課題も含めてお話しさせていただきました。非常に熱心にお聞きいただき、なかでもしつけなど日本の教育事情についても関心を持たれ、幼稚園にも日本の幼稚園教育を取り入れたいとの意向を示されました。そこで、日本の幼稚園教育についての情報を提供する旨お伝えしました。

今回のベトナムにおける教育視察を通して、日本への関心や日本の教育に対する評価の高さに、外国から見た日本を改めて見直す機会となりました。また、ベトナムにおける日本語教育に対する「本気度」をしみじみと感じ、訪問したそれぞれの教育活動機関等とよりよい連携を図りながらベトナムにおける日本語教育の充実に少しでもお役に立ちたいと思いました。
ガーさんとともにベトナムを出発する日、ガーさんの6歳になる息子さんが目から溢れる涙を手で拭い健気に母親を見送る姿に、胸痛むものを感じながらも遠く離れた日本で学ぶガーさんの決意に熱いものを感じ、頑張れと研究の成果を祈らずにはおれませんでした。