500坪を超えるかと思われる大きな邸宅が、一軒また一軒と引き続いて取り壊されるのを見ました。家の老朽化や少子高齢化などのゆえだとお聞きしました。そこに住まう人の喜怒哀楽の歴史が染み込んだ百年近い日本家屋が、あっけなく解体されるのは、他事ながら複雑な思いがしました。取り囲んでいた石塀が取り除かれると、広い庭に立派な松の木や大きな石が残されていました。ある日、それらは切り倒され、小さく砕かれていました。松は勿論のこと、石にも命が宿っているように思い、何処かで生かされることが出来なかったのだろうかと残念に思いました。そのような時、手がけた庭が500件を超える庭師歴50数年という方にお会いし、和風庭園の庭造りなどについてお話しを伺いました。修行中のことや仕事の流儀、樹木の薬害秘話など庭造りにかける思いをお聞きしながら、先の取り壊された庭も、施主さんの思いをうけ、庭師さんが丹精込めて造り上げられた庭であったろうと思いました。
「日本庭園は、日本の文化です。神社仏閣や公共的な公園の日本庭園だけでなく一般家庭における庭も含めて、今、日本庭園に対する関心が薄れかけていることが気がかりです。若者に日本庭園の良さや庭造りに関心を持って貰いたい。そして、庭師になりたいという若者には技術を伝えていきたいと考えています。自分たちの年齢になると、これまで自分が打ち込んできたことで何か社会に役立つことをしたいと思うようになるようです。事実、私の周りにもそういう仲間が多くいます。ボランティアで、若者に伝えていきたいです。」
日本庭園を訪れる人が、心癒され、日本の文化を感じ取ることができる庭造り、住む人の思いを活かした一般家庭の庭造りなど、様々な和風の庭造りにおける庭師の醍醐味を若者に感じさせたいという、その方の熱い思いに感じ入りました。そして、一人の若者が、師匠から技を学び、庭造りの奥深さに熱中し、「匠」と呼ばれる日を夢みて力を尽くす姿を想像し、熱くなっている自分の青臭さに人しれず苦笑しておりました。
基本をしっかりと身につけ、目指すことに打ち込み、自分の流儀を極めて、人に喜んでもらえる仕事をする。
これは、どのような職業にも通じることです。本学の学生たちも、介護福祉士や栄養士、幼稚園教諭や保育士、社会福祉士、企業人といった、心豊かで高い技術を備えた職業人として、社会に貢献し人に喜ばれる日を夢みて一層努力をして貰いたいと願っています。
それに加えて、学生たちが職業を自ら選択し自分の未来を切り開くことができるように、今以上に密度の濃い多様な知識と技術を伝えていかなければと感じました。