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生物多様性保全にむけて、地域の生態系保全にとりくむ 前迫ゆり研究室

2024.07.17 社会貢献とSDGs

1.シカ生息域照葉樹林のレジームシフト解析と植生動態解析による生物多様性保全の研究
 (2023~2025年度 科研基盤研究C)

 1980年代より全国的にシカの個体群増大と分布拡大が加速し、気候変動がもたらす極端気象と相まって森林生態系が跳躍的に変化する、「生態系レジームシフト」が生じている。日本全国でシカ個体群と生態系の葛藤が続いているが、特別天然記念物春日山原始林は長期間にわたって文化的シンボルの「ニホンジカ」(天然記念物)とせめぎあい、生物多様性の劣化と照葉樹林崩壊に直面している。
 本研究は「過密度シカ個体群」、極端気象やナラ枯れなどによる「ギャップ形成」、「外来種拡散」といったレジームシフト誘発要因による生物多様性の損失と再生プロセスを解析し、生物多様性保全に向けた森林生態系の順応的管理の具体的方策を提案するものである。
 具体的には既設シカ柵を用いた植生比較と照葉樹林全域の植生動態を解析し、シカ密度、ギャップ形成および微地形を組み合わせて、生物多様性保全の決定要因を抽出する。「文化と自然の共生」を視座に、生態系サービスを持続させるシカと森林の共生システム構築につなげる研究をめざしている。

 

2.30by30をめざす社叢の生物多様性および文化的サービスの研究:OECM認定推進に向けて
 (2023年度 日本自然保護協会 プロナツゥーラファンド採択研究)

 2030年の「30by30」実現に向けて、OECM認定の推進は重要な現代的課題である。都市、丘陵・山地に広く分布する「鎮守の森:社叢」は、都市域から丘陵・山地域まで、生物多様性の核となり、防災機能を発揮し、地域の自然を反映する生態系として,また伝統文化とコミュニティ形成の場として重要な存在である。しかし近年、面積の縮小、外来種の侵入、竹林拡大、巨木伐採、シカの採食、コミュニティ衰退などの複合的課題を抱えている。自然とそれを継承する文化の保全においてもOECMに認定すべき生態系であるが、基盤情報が少ない。そこで、既往研究から東北から九州までの重要な社叢を選定・リスト化し、フィールド研究により生物多様性と文化的サービスの調査を行う。その結果を自然共生サイト(国内のOECM登録)認定基準に照らして整理し、生態系保全を推進することを研究の目的とする。